S.E.Shires TROMOBNE 2YT08の話

なんだか非常に間が空いてしまった・・。書きたい事はたくさんあるのに時間がないのと気持ちのゆとりも無い、おまけにこの1ヶ月は体調が本当に良くなかった。言い訳はともかく仕事やライフスタイルを考え直さないと行けない時期かもしれない。
さて、今回のテーマは楽器である。
僕はだいたい飽きっぽいのだけど楽器に関してはこれまであまり変化がなかった、中学のときから憧れていた向井滋春氏が使用しているアメリカ製のトロンボーンKING 3Bがどうしても欲しくて、月収が3万円しか無い新聞奨学生のときに2年ローンで3Bの中古を買った。東京は神田の下倉楽器で、田舎から出て来たばかりの貧乏学生である点などを十分説明したお陰か本当に安くして頂いた。(その代わりマウスピースが付いてこなかったけど)憧れの楽器を所有した実感でジーンときた事は20年近く経た今でも本当に良く覚えている。
製造年から言って僕と殆ど同じ年齢のその楽器は去年の暮れまで数百回の本番を共にしてきたが、スライドの経年劣化や僕自身の体力の低下など(シルバーメッキで鳴らすのが楽でない)でどうしても変えざる得ないという事態になって大久保にある某楽器店に相談した。僕のオーダーは音色が暗めで遠鳴りであり反応が早め、ボアサイズ(管の直径)はKING 3Bとほぼ同じであるが少ない息でも良く響くといった事だ。楽器店からの回答はそれなら「S.E.Shires」しかないとの事だった。
「S.E.Shires」はボストンにあるトロンボーンの専門メーカーで「楽器の出来映えも、職人気質も、会社経営上の諸般の事由により、犠牲をしいたげられることは一切無い」という理想の高いコンセプトのもとプロフェッショナルユースのトロンボーンのみを製造している。その品質の高さは日本に輸入されるようになった数年前から我々の奏者の間でも度々話題になった。
あるとき知り合いの奏者の方からS.E.Shiresのクラシック用のテナーバストロンボーンを試奏させてもらったら、あまりの反応の良さと吹き易さに、そのままジャズ演奏にも使えると思ったほどだったので、そのメーカーのジャズモデルとなれば非常に期待出来ると思って勧められるままに取り寄せてみた。普通大手メーカーの楽器を買う場合には楽器の出来に個体差があるのが普通なので同じ品番のモデルを複数試奏して決めるのだが、ハンドメイドで作られているものは念入りなチェックがされており出来の善し悪しも少ない筈なので1本だけ頼んで送ってもらった。
僕はメインで使用していたシルバーの3Bの他にも合計8本所有している上に、良いと言われる楽器に出会うと出来るだけ試奏させてもらっているのでいろんなトロンボーンを吹いて来たが、このS.E.Shiresのジャズモデルを初めて吹いた時は本当に驚いた。遠鳴りに関しては自分が吹いているという気がしないほど遠くに鳴っているように聴こえ、少ない息でも音のクオリティを損なわずに直線的で収束感のある音が鳴るし、同じ圧力で息を入れればKING(多分他のメーカーのものでも同じ)より音量が大きく聴こえる。(これは聴いた人から何度も指摘された)管のサイズなどはKING 3Bと全く同じなので抵抗感や吹奏感は同じなのに音の鳴りがかなり違うために不思議な感じすらした。更に演奏で使用するとピアノやギターとデュオのような繊細で細かいタッチを必要とする演奏は、テナーバスのような上品な音色が非常にマッチしてジャズ喫茶のような狭いシチュエーションでもアンサンブルし易いし、カルテット以上の音量と音圧を使うような演奏でもきちんと音が前に行くので気持ちが良い。楽器の印象とか感想というのは感覚的なものなので言葉にし辛いが、総じて言えば音の出方はテナーバス(太管)っぽいのだが、操作性とレスポンスはテナー(細管)って事かな。
ところでこの楽器について面白い事がもうひとつあって、この数ヶ月間のあいだ同業者や仲間に随分試奏してもらったのだけど、感想が「絶賛」かもしくは「吹けない・・」の2種類で中間の感想が無いと言う事だ。楽器の重さも手伝ってか(テナーと思えないほど重い)女性はみんな辛そうだった。また男性でも根っからのジャズ吹きでKING 2BやBACH 12以下などの軽い吹きこなしに慣れているような人はやはり「きつい!」と言う。気に入るのはきまって普段テナーバスや太めのテナーを吹くハードブロー気味の男性奏者だ。なんだか吹き手を選ぶあたり前に書いたオートバイCB1300SFに似ているなあ・・ふふふ。(←もう売っちゃったけど)